第一話 大義を胸に ※本作品の表現は一部の方は拒否反応を示す可能性があります。お気をつけ下さい。 『――でありまして、今年に入ってからわが国の食料自給率は1%未満に落ち込んでおります。』 『外界の動植物は汚染の影響で確認できる現存の種の9割が死滅したとの調査結果もあり、このままでは食料自給率が0%になるのも時間の問題かと。』 『由々しき事態だ。早急な打開策を。』 『ワド君、食品合成の研究はどうなっている?』 『は、現在我がグループが全力で研究を進めていますが、合成された食品では大規模な飢餓を凌ぐ事は出来ないとの報告があります。』 『やはり合成はできても材料が調達不能という事か?』 『残念ながらその通りです。現在の方法では国民に対する割合の食品を合成する事は不可能と算出されました。』 『むぅ・・・いくら革新的な技術があっても素材がなければ物を作り出すことは出来ん。』 『このまま合成食料の研究を進めて大丈夫だろうか?』 『そろそろ新たな道を模索する時期が来たのかもしれん。』 『―――ここは私にお任せを。』 『コリスト博士?何か打開案でもあるのか?』 『ええ、この方法が実現できれば我が食糧事情は一気に改善できるかと・・・!』 『では具体案を聞かせてもらおう。一体どのように食料を確保する積もりかね?』 『ええ、その方法は―――。』 『・・・ふむ、面白い案だ。』 『馬鹿げている!そんな事できるわけがないでしょう!?』 『理論は完璧に出来上がってるのですよ?あとは資金と協力さえしていただければ・・・!』 『もはや、このまま停滞しているわけにはゆかぬ。突飛な案だろうと受け入れざるを得ない時が来たのかも知れぬ。』 『そ・・・そんなっ!?』 『よし、ではこの案は君のグループに一任しよう。今後はコリスト君の研究に研究費用を割いてゆく。』 『御理解に深く感謝致します。』 『では本日の会議はこれにて終了とする。』 ・・・・・ 会議室から出るとコリスト博士の元に一人の白衣の男性が近づいた。 「どういうつもりだ!?お前のせいで僕の研究費用が大幅に削減されたじゃないか!」 突然コリストの胸倉を掴んで詰め寄る白衣の男性。 コリスト「何を怒ってるんだい?ワド君。進展のない研究にいつまでも経費を割けるわけないだろう?」 ワド「や・・役立たずだと言いたいのか!?僕の合成食料は未来を担う研究になるはずだったんだ!」 コリスト「確かに優秀な結果だ。しかし、実現不可能な机上の空論じゃ民は救えない。聡明な君なら理解できるね?」 ワド「お前の研究だって机上の空論じゃないか!」 コリスト「空論?実行もしないで空論だなんて心外だね。」 ワド「そこまで言い切れるなら・・・お前はこの全世界規模の飢餓を止められるとでも言うのか!!」 コリスト「止められるさ。」 ワド「な、何故そう言いきれる!」 コリスト「自分の研究に自信のない者には世界の民は救えないさ。」 ワド「・・・やってみろよ。見せてみろよ!お前の研究をっ!絶対に救えるんだな!?」 コリスト「ああ、言われなくとも見せてやるさ。だがワド君、君の為じゃない。」 ワド「・・・なに?」 コリスト「世界の為だ。」 ワド「・・・フン。」 掴んでいた胸倉を離すとそのまま廊下を歩いていった。 ワド「せいぜい人類の為に頑張るんだな。救世主さんよ。」 コリスト「粗暴な奴だ・・・。」 パンパンっと自分の白衣を叩いて乱れた衣服を整える。 コリスト「絶対に実現してやるさ・・・。」 そのままの足で自分の研究室へと戻っていった。 ガチャ 「おかえりなさい、コリスト博士。」 部屋の中から研究員らしき女性がコリスト博士を出迎えた。 研究員はすぐにコーヒーを淹れると、湯気が立ち昇るカップをコリストに手渡した。 コリスト「やっと上層部からの資金援助の許可が下りた。スフィーダ、これから機材の準備に取り掛かるぞ。」 スフィーダ「ほっ・・・本当ですか!?」 コリスト「本当だとも。早速、被検体の細胞の培養の準備を始める。」 スフィーダ「しかし、生きた家畜は殆ど居りません。それもオーソドックスな三大家畜しか・・・。」 コリスト「まずはそこから始めても問題ないだろう?後は失敗してから考えればいい。」 スフィーダ「はいっ!わかりました!」 嬉々として機材を運び出すスフィーダ。 コリスト「さぁて、これから忙しくなるぞ。」 その日のスフィーダの日記にはこう記されていた。 『これから私達が本格的に研究できるようになりました。絶対に失敗出来ないので私が頑張らないといけません。』 ・・・・・ コリスト「家畜の細胞の培養の結果はどうなった?順調か?」 スフィーダ「そ、それが・・・これを御覧下さい。」 悲しげな表情でシャーレを手渡すスフィーダ。 コリスト「馬鹿な・・・全滅してるじゃないかっ!?」 スフィーダ「全て桑実胚(そうじつはい)の段階までは成長するのですが、その後は細胞が培養液に耐えられず壊死してしまうのです。」 コリスト「・・・どういう事だ!?もう一度、もう一度培養し直すんだ。そして原因を探るっ!」 スフィーダ「はいっ!」 コリスト「(理論上、この培養液で育つはずなのだ。なのに・・・何故上手くいかない?)」 頭を抱えながらコリスト博士は研究室の外へと出て行った。 机の上には研究用のノートが無造作に置かれている。 コリスト博士のノートは数式が幾度も書き直されてページが真っ黒になっていた。 ・・・・・ 今日も細胞の入ったシャーレと試験管を手にスフィーダがコリストに話し掛ける。 スフィーダ「コリスト博士・・・残念なお知らせが・・・。」 コリスト「何も言うな。言わずともわかる。」 スフィーダ「すみません・・・!」 コリスト「君のせいじゃないさ。私の理論が不完全だったというだけの事。」 スフィーダ「本当にすみm・・・ゲホッゴホッ!!」 コリスト「どうした、風邪か?昨日も徹夜だっただろう?今日くらいはゆっくり休んだらどうだ?」 スフィーダ「いえ・・・大丈夫、です。」 コリスト「・・・先週から咳の数が異常に増えてないか?一度医務室で診て貰った方がいい。」 スフィーダ「・・・急がないと研究が打ち切られてしまうかも・・・!」 コリスト「馬鹿いえ。助手である君が倒れたら今後の作業を私一人でやらなければならなくなるんだぞ?」 スフィーダ「で、でも・・・。」 コリスト「なぁに、一日くらい問題ないさ。その代わりキッチリ治してくる様に。」 スフィーダ「・・・はい。では今日はお先に失礼します。」 その日のスフィーダの日記にはこう綴られていた。 『薬を貰いましたが明日も医務室に来て欲しいって言われました。採血や採尿等の各種検査の結果の告知でしょうか?』 |