Alive Survival




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第一話 旅立ち



「ここは・・・そうか、ここがエシメールの霧か。」


そう呟いたピクシーの青年は物珍しそうに周囲を見回した。

吸い込まれそうなほど澄んだ青空に煌びやかに玉虫色に輝く見た事も無い建物。

形容しがたいほどの幻想的な空間が目の前に広がっていた―――。




・・・・・




ピンポーン


業者「幽霊宅配便です、お荷物のお届けにあがりましたーっ。」

男「はいー、これ・・・ハンコっと。」

業者「ありがとうございます。またの御利用お待ちしております。それではっ。」


玄関のドアを閉めるとハキハキした口調で業者がトラックに駆け込んでいった。


男「やーっと届いた届いたっ♪待ちくたびれちゃったよ、もうっ!」


鼻歌交じりに荷物を自室に持ち運ぶと床の上にドサッと荷物の箱を置いた。

荷物のダンボールから力任せにガムテープを引き剥がすとそそくさと蓋を開ける。

そこには―――組み立て式の健康器具のようなストレッチマシーンのようなよく分からない機械が折りたたまれて収納されていた。

その機械の横には小さなCDケースが同梱されていた。

いそいそとCDケースを男は取り出した。


男「まさかこんな『ゲーム』が作られるなんてねェ・・・?」


CDケースの前面にはこんなタイトルが刻まれていた。


”Alive Survival”


男「さすがに一機購入するのは高かったけどそんだけのクオリティはあるからなーっ。」


これは今日本中を騒がせている『社会人向け体感型オンラインRPGゲーム』である。

この体感型というのは、特殊なキャラクター操作に由来している。

特殊なシアターボックス内に入り、自分がその中で動く事により『オンライン上の世界』でキャラクターが動くという仕組みである。

ボックスの足元は特殊なベルトコンベアーのようになっており、中で歩いても大丈夫な仕組みになっている。

そして更に手足や腰に連動型コントローラーを装着する事により、実際の動きをそのままダイレクトにゲーム内に伝えられるのである。

極めつけは頭に装着するマイク付き特殊ゴーグル。

これをつけることにより、3次元の映像・音声をまるでその世界に自分が居るかのように体験できるという優れもの。

先程届いた荷物を説明書を読みながらテキパキと組み立てていく男。

様々な体感型ゲームが普及してきたとはいえ、これは一機20万もする。

ゲームに投資するには少々高い買い物である。

が、男が言うように買うだけの価値はあった。

今、全国でこのゲームに参加している人数はおよそ10万人。

値段と年齢制限の為か、参加しているのは殆どが大学生か社会人である。

ちなみに18歳未満ではプレイする事はできない。

とはいっても特に過激な表現があるわけではないのだが、あまりにも現実世界と『混同』し易い環境な為に感受性の強い子供にはプレイ制限がかかっている。


男「っしゃーっ!組み立て完了っ!!」


ゲーム機の外見は黒い怪しげな電話ボックスに近いだろうか。

さっそく電源とネット回線のケーブルを接続させて起動させる。

さすがに大きな機材の為か起動にやや時間がかかるようだ。


男「・・・そうだ、今のうちに説明書でも読んどくかなぁ。」


面倒臭そうにルールブックを取り出して開いてみる。

※ルールブックはこちら(別ウィンドウで開きます)


男「だーっ!活字ばっかで細かいなー?」


元々こういった文章を読むのは好きじゃないが大枚はたいて買ったゲームである。

渋々ルールブックにも全て目を通してみる事にした。


男「なーにが勇者ばかりな世界は終わった、だ。んーとまずは『ゲーム開始前に』から・・・。」


まずは一般的な注意事項から。

軽く読み飛ばし次の説明に目を通す。


男「種族っつーのがたくさんあるみたいだな?なになに・・6大種族か・・・。」


まずはキャラクターを作るのに種族を決める必要がある。

そんなわけで詳しい種族の説明を見てみる事にした。


男「動物は何か嫌だなぁ・・・天使っつーガラでもねーし・・・。」


なりたい種族の選択はやはり個人の趣味に委ねられる。


男「ファンタジーに乗り込んでまで人間やりたかねーし、魔物も惹かれるけどアンデッドはなぁ・・・。」


ぶつぶつ独り言を言いながらあれこれ種族を物色している。

暫くあれこれ考えていたがついにどれにするか決心がついたようだ。


男「うしっ!決めた!妖精種族にしよう!」


やっぱりファンタジーといえば華やかな妖精たちのイメージが先行し易い。

せっかくその世界に行くなら身も心も妖精になってしまおうと。

大の男が妖精になるというのも恥ずかしい話ではあるがこの中の世界ではごく普通な事である。

一通りルールを読み終える頃にはゲーム機は起動し終えていた。

さっそく乗り込んでコントローラーであるベルトやリングやゴーグルを全身に装着する。

こういった非日常的なものを身に付けると年甲斐もなくワクワクしてしまうものである。

さっそく操作手順に従いキャラクター作成画面へと切り替える。

その前にゴーグルから音声が聞こえてきた。


音声「今から全身の撮影を行います。直立姿勢のまま動かないで下さい。」


どうやら今から男の全身の情報を読み込んでいるようである。

暫くすると見慣れた自分の姿が3D化して目の前に現れた。


男「うへぇ・・・俺ってゲーム内じゃこんなんになるのか・・・。」


更に画面に詳しい情報も記載されてゆく。

・身長178cm、体重68kg、性別男

そして次に種族選択画面へと切り替わった。

試しに人間のナイトを選ぶと画像の自分が無骨な甲冑へと変わる。


男「ぶはっ。似合わねぇーっ!」


通常、ファンタジーではカラフルな髪色だが日常的な黒髪で、なおかつ日本人の典型的な体型だと酷く違和感を覚える。


男「なるほど・・・最初の情報を元に種族補正が画面に加わるって事か。」


ライトエルフを選ぶと耳の先がやや尖り、身長が少しだけ伸びた気がした。

さすがにライトエルフとなると髪の色も金髪になった。


男「長身ってのも悪くねーけどな。自分の耳が長いっつーのがちょっとアレだが・・・。」


次にエンジェルを選んでみる。

見事に背中には純白の翼が生えて頭上に光の輪がくっついた。


男「ぎゃははははっ!!うわ、我ながらだっせぇ・・・。」


見るに耐えかねてすぐに人間に画像を戻す。


男「天使とか悪魔って憧れるけど自分でやるもんじゃねーな、それでもやる人はたくさんいるんだろーが。」


次に亜人種族へと切り換えてみる。


男「うお、マーマンとかオークとかこれもう特殊メイクレベルじゃねーか?」


人間に近いとはいえどちらかといえばモンスターのようなものである。

補正が強い為か元の顔は自分かどうかもよく分からなくなってしまった。

最後に動物種族も覗いてみる。

画面には普通の動植物やドラゴンの画像が映し出された。


男「さすがにこれは無理か。身長や体重から大きさは算出されてそうだけど。」


そういう意味では素顔を晒したくない人には人気があるのかもしれない。

一通り自分の身体で様々な種族をシミュレーションしてみた。

そして一通り見た上である種族に決定した。


男「俺はあんまゴツくねーし、元の体格も程よくわからなくなるフェアリー系統のピクシーにしよっと。」


ピクシー、それは体の小さな妖精の事である。

それでいて人型なので自分の顔はそのまま維持されている。


音声「妖精種族、ピクシー、守護属性・風、出身地・エシメールの霧。これで宜しいですか?」


音声と共にYes/Noの表示が出る。

迷わずYesを選択した。


音声「あなたの種族が決定致しました。次にキャラクター名を入力して下さい。」

男「名前、か・・・そういや全然考えてなかったなー?」


本当に何も考えてなかったのか、種族の事も頭に入れて数分悩んだ挙句、こう入力した。


男「風と体の大きさのイメージから、小さな嵐・・・リトル ストーム。それを縮めて『リトム』。よし、これにしよう。」


決定のボタンを押すと画面が暗転し・・・。



・・・・・




気がつくと何処かの街のような場所の広場の中心部に佇んでいた。


リトム「ここは・・・そうか、ここがエシメールの霧か。」


そう呟いたピクシーの青年は物珍しそうに周囲を見回した。

吸い込まれそうなほど澄んだ青空に煌びやかに玉虫色に輝く見た事も無い建物。

こうしてこの世界で『リトム』としての冒険が幕を開いたのであった。




リトム 現在地:エシメールの霧
LV.1 性別 ♂ 種族 ピクシー 守護属性 風 妖精種族
HP 50/50 SP 60/60 状態 正常
物理攻撃力 15+1 物理防御力 10+2 魔法攻撃力 37+3 魔法防御力 49
命中率 9 回避率 70 信仰 20 邪気 42+1 スピード 63

装備品
右手 ロッド 物攻 +1 魔攻 +3 邪気 +1
左手 なし
身体 皮の服 物防 +2
装飾 なし
特殊 なし
特殊 なし

所持スキル
ウィンドカッター 範囲:敵単体 魔法攻撃 風属性付加 消費SP 15

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